| 以下、「住宅建築」(建築資料研究社)1990年7月号より抜粋
 
 

京都府京都市/Tさんのお宅
延床面積/106.04平方メートル
設計/N設計室
施工/ツキデ工務店
山科の家
初めて訪れた5月初め、西側の山には藤の花が房を下げていた。既存の家では階段の小窓からわずかに見えるだけで、奥さんは「桜も紅葉もあるんですけれど」と残念がっておられた。6
0戸あまりの造成住宅地の西の端に位置し、坂道から入れるRCの地下駐車場付きの住まいの建て替えである。ぽつぽつとすでに建て替えられた家はあるものの、全体が軒並みの揃った瓦屋根でまとまっており、くずすのがちょっと忍びない気がした。面積的にもさほど大きくできるわけではない。28坪の南北に長い敷地で、1階では南からの採光は望めない。西側道路に面する擁壁と駐車場は予算がかかりすぎるのでいじらないとする。東と南の隣家に対して配慮をする。これらの制約からかえって計画はスムーズに進んだ。通路状の面積は玄関と階段を中央にとることで極力少なくし、それぞれの場所がそれぞれの”抜け”の場を持つようにした。広さが足りないところはせめて広く感じさせたいと思う。そのために家の周囲に少しずつ性格の違うニワがある。アプローチは門も塀もなく高低差が奥行きをつくり、書斎前は擁壁にはり出してすのこ張りの縁側みたいな所。浴室と寝室からしか見えないプライベートな坪庭。そして客間と北側道路の間に囲い込まれたスペース。通風、採光を採るのはもちろんだが、これらのニワは外の空気につながっていく。
2階に移った居間、食堂、台所はワンルームで広く、明るくなった。食卓からは四季折々に、桜や藤や紅葉が眺められる。引っ越しにあたり奥さんはこちらが驚くほどおもいきりよくモノを処分されたらしい。ぎっしりつまるだろうと思っていた棚にきれいなガラスの小物が飾られている。(越阪部幸子)
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